07.東 京 <巨大開発の光と闇>2004.01


2003年4月、東京「六本木ヒルズ」のオープンはテレビを騒がせました。巨大開発は、
この他にも、丸の内、汐留、品川などがあります。事業主・森ビル(株)は、「東京は、ニュ
ーヨークやロンドン、パリと肩を並べる国際都市であるにもかかわらず、都市文化の成熟
度においては、大きく遅れをとっていると言わざるを得ません。東京に文化の核をつくり、
日本を代表する文化都心を創出するために計画しました。」(写真1・2)

● 巨大開発の光・その壮大な複合開発

今後の再生戦略は、東京都心部の巨大な街の模型を俯瞰しつつ進められています。こ
こは、現在の既成市街地の再開発のなかでは国内最大規模で、期間17年、施行区域
約11ヘクタール、総床面積約72万4千uという大きさを誇っています。
「ここにオフィス、住宅、ホテル、商業施設、文化施設などの機能を融合させます。また、
既存の池・緑の保全をはじめ、公園・広場などを整理し、計画敷地面積の過半を広い空
地とすることで、緑豊かで潤いのある文化都心を実現します。・・・・・・」
確かに、首都への使命感あふれる壮大な計画です。何でも揃う複合開発で、訪問者は
都市文化や流行の最先端を体験する主役になれる満足感をもつことができます。

写真1.六本木ヒルズ全景(新建築より)写真2.左:東京、右:ニューヨーク街模型
毛利家下屋敷跡など歴史ある地区に、緑を保全しつつ広い公開空地を確保している。
高度地区指定などにより東京新都心への一極集中が加速され、長い時間にわたる
生活や業務活動等の集積の結果としての「都市景観」も、インフラ(都市の骨格となる
道路や下水道など)の整備で急激に変貌してゆく。

● 巨大開発は是か非か・その評価の一端

「再開発で変ったまちをどう思いますか」との若年層への質問に対して、
A.昔からの町並が失われて寂しい  42.3%
B.便利そうで実は不便な面が多い  27.8%
C.明らかに供給過剰、無駄だ  20.5%
D.きれいになってうれしい   8.2%
E.交通や買い物の便がよくなった   1.2%
・・・・と、意外な結果でした。それも熟年層でなく、むしろ21世紀を支えるおしゃれな若い
世代の回答です。美しさや便利さの評価が低く、歴史的な「まちなみ」を重んずる粋な美
意識や価値観が反映されています。

● 巨大開発の闇・(1)地域の記憶と絆の喪失

ここ六本木は、台地の尾根にあり、江戸時代には大名屋敷がありました。そこからの緩
やかな南斜面上には武家地が、麻布十番といった谷間には庶民の居住地が、各々散在
する由緒ある地域でした。巨大開発は、これらの歴史、地形、地域性、コミュニティなどを
部分的には残しながらも、一気に消し去ります。都心の一等地は首都の顔であり、ハイ
テクを駆使した超高層ビル群も必要かもしれません。400人にものぼる地権者は、超高
層住居に住み、月額150万以上と言われる賃貸マンションもあります。

高家賃の新都心に棲むことは、歩いて暮らせる範囲内で何でも手に入る便利さを享受す
る代償として、長い時間をかけて創り上げた「人々の共有の記憶」を消し去り、地域への
愛着性や懐かしさを無くすことかもしれません。私たちは、地震や火事などの危機の際
には都市のインフラよりも「地域の絆がつくる互助」こそ大切であることを、先の阪神淡路
大震災で学んだはずです。

● 巨大開発の闇・(2)空きビルと街の衰退化

この巨大開発の一方、横浜や千葉の新旧都心はもちろん、都内にも空きビルが増え始
めました。2〜30年前の少し古びたオフィスビルが建ち並ぶところでは、カーテンが閉ま
り、明かりの消えた部屋が目立ちます。競売にかけられ、廃虚同然の姿をさらす大規模
ビルもあります。オフィスの需給バランスが崩れた2003年問題です。

古いビルはIT対応もできず、空室は埋まりにくい。空室率は一割以上と言われ、人が減
り、商店街へ深刻な影響を与えます。地方都市にはまばゆいばかりの再開発が相次ぐ
一方、東京でもこんな寂しげな光景が広がっています。地方都市での隆盛する沿道型店
舗、衰退・空洞化する中心商店街と、歩を一にしているとも思われます。

● 巨大開発の後始末・コンバージョン

これら空きビルを再生して学生寮や住居に改修する計画もあります。この試みはコンバ
ージョン(用途変更)と呼ばれ、オフィス過剰時代の都市再生策として注目を集めていま
す。これには難問も多く、住居に必要な採光や避難経路をどう確保するか、ビルの形態
によって法的な制約も異なります。ゼネコン各社などは既に活発な営業活動を始め、国
も支援策を検討中です。

世界的には超一級のオフィスビルが空いています。郊外で「高遠狭」の住居に住んでい
る人たちが改修して移り住めば、都心に人を呼び戻すいいチャンスになるでしょう。新し
い超高層ビル群をつくるよりも、そのほうが不況で苦しむ今の日本の実力に合っていると
思いますが、如何でしょうか。

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