◆ 特別寄稿1.望ましい未来へ2004.09

  「自然・とき・人と共生する」美しいまち


● まちの望ましい姿は、将来にわたって「安全・安心・快適に暮らせる」ことでしょう。
篠山はもはやデカンショ節に謡われるような草深い山奥の代名詞ではありません。時の
経過に従って物的に充足する従来型の発展より、日常の暮らしの質や居心地のよさを
深め、ゆっくり着実に成熟してほしいものです。

● 私は篠山のまちづくりのテーマは、「美しい環境との共生」だと考えます。では共生と
はなにか。私は主に次の3つが人の営みとの共生になると思います。

一つは自然との共生です。ところがこの半世紀、科学技術の力で建設と破壊を繰り返し
て自然を散々傷め、その挙句地球環境に重大な影響を及ぼすようなことをやっておきな
がら、「今さら自然共生とは!」と丹波の森の神様にしかられそうな気がします。共生は
同等のものが連携することですが、人間は自然と共生するどころか本当はその一部で、
米、栗、松茸、黒豆など多くの恵みを与えられてきました。雄大な「丹波の森構想」や日
本列島の背骨部分での過疎化対策、地産地消型の農林業の振興、里山や棚田の保
全、里づくりなどにもかかわります。

二番目が時間との共生です。時を経て人々の共有する記憶となった古い建築がまちな
みとして創造的に残り、新旧の有形、無形のものが共存・共生しています。篠山城周辺、
御徒士町の武家屋敷跡、河原町の妻入り商家群などのほか、多くの伝統行事や市民
活動の集積があります。時をかけた文化資産を総合的に生かし、城下町のイメージへ
の一本化により、観光に更に磨きをかけてほしいものです。

最後は人相互の共生です。協力し助け合うことでお隣り同士、共に生きているのです。
現代の結(ゆい)で、身近な近隣同士の互助、それで不可能ならまちレベルの共助、更
に行政からの支援も絡む公助などが考えられます。私たちは、先の阪神淡路大震災で
危機の際には都市のインフラよりも「地域の絆がつくる互助」の方が大切であることを学
びました。日常用語には「お蔭さま」に人相互の共生が表現されています。

写真1.現在の篠山城下の航空写真写真2.篠山河原町 きり絵:前田 尋

● さて、まちの将来は市民自らが決めるものですが、篠山には観光や農林業の振興、
街なかの活性化、福祉など重要課題が山積しています。これらを包括して「自然・とき・人
と共生する」美しいまちになるには、幾つかの前提が必要でしょう。

(1) 個人の庭や建築も、統一感ある豊かな公共財産としてのまち景観をつくるうえで、重
  要なことを認識する。
(2) 調和ある美しい景観は、まちの魅力を高め、暮らしや観光をつうじて経済的な恩恵を
  もたらすことを知る。
(3) 環境を含めた身の廻りのものを使い捨てにせず、「もったいない」と感謝しながら自ら
  手入れして長く使うことの大切さを再認識する。
(4) 暮らしの長期的展望より経済効率を優先させた、早い・安い・見栄えよい「まちづくり」
  のあり方を見直す。「まちづくり」には時間がかかることを認識する。
(5) 技術開発による似て非なる建築素材よりも、地場の自然素材を用い、伝統的熟練技
  能でつくることを推進する。

● 近景の調和から美しい景観づくり

霧にかすむ天与の自然に民家が散在する篠山の景観は、遠景では美しいものです。
しかし、中景・近景では人の営みによる構築物の方が景観をつくります。特に近景では
自然景観と構築物、構築物相互の調和への配慮を要します。たとえ個々には美しい建
築が集合しても決して美しいまち景観にならないでしょう。

● 美しいまち景観の品格を保つ

まち景観は記憶や原風景となります。特に街なかは、長い時間の経過で品位ある環境
の連続性と新旧建築の多様性が共存する劇場です。観客として広く旧城下の佇まいを
歩くことは健康の維持増進やまちの発見にもなり、歩いて楽しいまちづくりにしたいもの
です。まず、安らぎと懐かしさある外濠の内側から歩行専用化を試みては如何でしょう。

しかし、篠山も随分都市化され、公共の美への配慮をもたぬ「まちの品位にかかわる景
観」を随所に増殖させています。例えば、街なかの空洞化をよそに、沿道型店舗などは
車の利用客が遠くから識別できるように広告と原色を多用した派手な外観であり、全国
共通の醜悪で画一的な景観になってしまいます。

これに歯止めをかけ、例えば、まち全体をまち景観保全地区、一般市街地・商業地、駅
周辺や新興住宅地等の開発地域、自然景観育成地域などに分け、まちの顔となる地域
毎に建築物の規模、形態、素材、色彩など総合的な規制を加え、篠山らしい秩序と品格
を創るように誘導する必要があります。また街なかでは、住民合意によるきめ細かな景
観のルールづくりや、まち周辺の花や緑の環境を取り入れ、景観上重要な建築物・植物
が一体となった改修・保全が大切です。

写真3.幕末の篠山城下絵図
     出展:丹波国篠山御城図
写真4.西新町の旧武家屋敷群
     =無電柱化が課題

● 美しいまちを「知る・創る・育む」

美しい景観を創るには何世代もかけた継続的な取り組みを要します。望ましい未来像を
共有するために「市民の選ぶ美しい篠山」を研究し、学校の総合的学習や「いぬい塾」は
じめ市民向け生涯学習講座に郷土愛を育む環境共生教育を採り入れてはいかがでしょ
う。また国際化とともに地域の役割が見直されつつあるとき、高齢者には篠山の語り部、
文化の伝道者として幼若年層の育成にご活躍頂きたいものです。

自然を恐れ敬い、美しい篠山を営々と創り育んできた先人に敬意を払いながら、現代の
技術と感性でさらに美しい景観を創り伝えることが私たちの役割でしょう。
篠山は、日本一美しいふるさとであってほしいと心から願っています。

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