◆ 特別寄稿2「篠山らしい地域力を活かそう!」2005.10


=「都市のユニバーサリズム、ナショナリズム、ローカロズム―都市の本質的なりたちに
関する基礎的研究―『第二分冊 篠山編』 平成17年3月 代表 浅野慎一(神戸大学)」
を読んで
<(註)本文中の※「 」は報告書の要約、【 】は引用部分、一般向けに平易に変更した>

●「第二分冊 篠山編」の概要

「篠山編」は、「都市のなりたち研究会 篠山研究班」による2001〜04年度の共同研究
の成果です。この研究班は、佐々木衛・神戸大学教授を班長に複数の大学の社会学の
若手研究者全十名で構成され、篠山の自治会長、行政、市民、事業者、郷友会員など
へのヒアリングやアンケート調査、現地調査により進められました。本編は、
第1部 篠山の社会的基本構造
第2部 平成の町村合併と地域社会
第3部 地方都市の文化的蓄積
資料編 市民意識調査の結果、などからなっています。

圧巻はもちろん第3部で、今の篠山を成立させた人的・物的資源、つまり、商工会、町並
み保存、里山保全、郷友会員を題材に、篠山の文化特性が語られています。私は興味
深い第3部に絞ってこの概要と私見を述べたいと思います。

写真1.河原町・瓦の家並み=地方都市
     でも珍しくなった瓦の家並みが
     篠山にはふつうにある
写真2.南新町=重要伝建地区(左)との
     境目は遊歩道となり、隣接地では
     良好な住宅地が広がる

● 篠山の「地域力」

※「地域全体の利益と自己利益との整合性が、今後解体する可能性もある。」

地域力には、(1)地域への誇り、(2)愛着、(3)貢献意志の3つが必須で、地域全体の利益
を見据えた体現者、オピニオンリーダーとして2人・1団体が紹介されています。

(1) 中西 通氏(篠山商工会元会長)
【地域自らが何が最も必要で相応しいかを考えること。永い生活の営みの中で構築した
商業集積や伝統文化、即ち城下町として不可欠な佇まいを失わないよう肝に銘じなけれ
ばならない。旧裁判所など、歴史的なものは保存活用する。】・・・・この発言には、郷土の
文化への愛着と育んだ誇り、自助の精神が感じ取れます。

(2) 次に「多紀郷友会」
【明治24年創刊、青山家の尚志館に集う青年が同郷者の親睦団体を発足、百年以上
継続。現会員数894名】、在郷者・離郷者ともに篠山の活動の積極的支援者であり、
地域力の要であるという。

(3) 円増亮介氏(篠山観光協会会長)
氏の指摘する現状と課題は、
1.客観的条件=商店街と老舗の衰退。
2.商店のモラルの低下=篠山が創りあげた共有のブランド力を個人利益のために利
  用して、ブランドを内側から崩す。例えば、篠山以外の産物を「丹波の黒豆」と称して
  売る。
3.まちの人たちの志気(意欲)の低下
・・・これらが悪循環する下降スパイラル現象が起こっているというのです。
円増氏や大見春樹氏が中核の【TMO=とってもまじめなおじさんの店】(正確にはTown
Management Organization=まち運営推進協議会のこと、中心市街地活性化施策を推
進する)のように「地元で商売して生きる」という積極性の大切さと難しさが説かれていま
す。「地元で生まれ育った人たち」と「演出された地元を楽しむ観光客」の出会いが、現状
を良循環・上昇スパイラルにできるかどうかが課題です。地域力は人にかかっています。

● 町並み保存をめぐる地元の対応

※「法的な環境保全と住む人の暮らしとの間に齟齬が生じ、意見も多様である。」

町並み景観とは、その地域固有の最適な環境を得るために地域の人々が自ら創りあげ
たものです。暮らしの積み重ねから生まれた知恵と工夫の時間的・空間的な共有表現で
あって、単に通りから見たお化粧ではないのです。

高度経済成長期に、壊しては建て、建てては壊すことの繰り返しによって古い建築や町
並みが壊され、長年蓄積された景観が短期間のうちに変わりました。建築史に残るよう
な名建築物でなくとも、地域に馴染み愛着をもたれてきた建築や町並みは、地域の「顔
や個性」であり、歴史的「地域資産」です。将来にわたってその存続を願うのは、自らの
拠りどころの永続を願うことです。新旧の建築が混在することは、まちに風格を、人々に
安らぎを与えます。旧篠山町庁舎の大正ロマン館、中学校統合後のチルドレンズ・ミュー
ジアムなどは建築単体のコンバージョン(用途変更)の好例です。

2004年12月、篠山城跡を取り囲むように、中央の城跡と武家屋敷群の西新町、妻入
り商家群の上・下河原町に加え、南・東新町、小川町の一部が「重要な建造物群の残る
一続きの地域」として、重要伝建地区に指定されました。この地区の無電柱化は課題で
すが、河原町は既に暗黙のルールによって、統一感ある町並みが維持されてきたと言え
ます。【・・・・例えば、商家の補修には色瓦やスレートを使わない、シャッターをつけない、
看板に気をつけるなど、古くから共有されてきた「町を守る」意識が濃い。】

重要伝建地区の指定や古建築の保存活用によって、個性的なまちおこしを図るのはブ
ームの感さえあります。この規制のお蔭で新規転入者が空き店舗を使用することに既住
者の反対はないようです。多少なりとも暮らしの不便さを強いられることを承知の上で地
区指定の賛同を得るには、何を、何故、どのように保存するのか、明確にすることが大
切です。

写真3.河原町の妻入り商家群
    =2004年12月に文化庁より
     重要伝建地区に指定された
写真4.西尾家住宅・酒蔵空間
    =西尾武陵の展示や演奏会など
     柔軟で多目的な使い方が可能

● 都市交流と里山の意味変化

※「篠山の里山は、特色ある豊かな食材と食文化を支える資源である。都市住民に開か
  れた自然空間の利用・管理方法を考案し、経済効果を高めよう。」

伝統的な村落の共有林は、集落からの距離により、(1)薪炭林、(2)草刈場、(3)深山の3
区域に分かれていました。近年、人の手の及ばない深山に棲息する野生動物が人里に
出現するのも、食料不足に加え、薪炭林や草刈場を人が利用しなくなったことが原因と
する説もあります。

昭和30年代の半ばまで、近在の里山は「燃料や肥料、食料生産の場」でもありました。
柴や薪から石炭・石油を経て、ガスや電気という燃料革命で、柴刈りのための入山が不
要となり、お蔭で里山は荒廃し松茸が採れなくなりました。里山は手入れすることで燃料
や食料の補給と集落の安全に大きく寄与しています。実は、黒豆、山芋、栗、松茸、猪な
どの篠山の豊富な産物は里山から採れたものばかりです。篠山のブランドを維持・発展
させるためにも、里山を荒廃から守り、再生・復活させねばなりません。

自然環境は使用価値を失うことで、逆に都市住民による自然体験や環境学習、林業体
験の場として関心を集めることになります。都市住民の野外活動の利用例として、大山
に里山オーナー制度があります。【地元の人は林業、都市住民のオーナーは林遊】と呼
べます。入会(いりあい)権をもつ特定の地元集団が独占的に利用する形から、多くの人
に開かれた遊びの場となることを意味します。

●「郷友」と「郷土」意識

※「郷友会員を離郷・地元・在郷・帰郷会員に4分類した。(1)篠山が志向対象か、生活
  の場か、(2)篠山は積極的にかかわる対象か、距離を置く対象かによる。」

篠山の離郷会員の特質について、興味深い指摘が幾つかあります。
【インタビューでは、離郷会員の多くは、自身や篠山を表現する際に、好んで「田舎者」
「農民感覚」「垢抜けしない野暮」といった言葉を用いる印象があったが、これは「謙遜と
いうよりは、むしろ強い誇りの裏返し」とみるべきだろう。・・・・】

確かに、田舎者イメージゆえに居直りともいえる自己PRをしても、他郷人に警戒されな
い気楽さがあります。それほど、他郷人からは愛郷の念の強い団体であり、また篠山は
それにふさわしい強い魅力をもつ故郷だという証でしょう。さらに、【都市圏の「郷友の集
い」での行政との意見交換は、離郷会員は常日頃から郷土の動向に注目していることを
行政に実感させる機会でもある。】と「郷友」の行政への影響に言及しています。

● 郷友会員にみる都市移動と家族

【・・・・・定年退職後も転出先に留まることが確定し、夫婦のみの世帯になって初めて地域
活動に目覚め、子どもにとっての故郷づくりを始めた】 ある離郷者の話には、多くの人が
頷いておられるのではないでしょうか。

人は帰れる故郷と愛郷心をもつが故に、転出先で心置きなく活躍できる面があります。
その逆に、好むと好まざるとにかかわらず、離郷したことへの後ろめたさや篠山との縁を
断ち切り、転出先を「異郷から故郷に」してこそ「一人前の離郷者」と言える面もあるでし
ょう。地縁性が希薄になろうと篠山に本籍と墓地をもつのも、自らの存在の拠り所を証明
し続けたいとする潜在的な願望かもしれません。この願望を刺激するのが「郷友」の「郷
友」たる所以でしょう。

● おわりに―まだある篠山の地域資産

昨夏、私は大山の西尾家住宅を訪ねました。国有形文化財として市教育委員会の支援
もさることながら、西尾禎子様からは酒蔵や茶室「杜陰軒」などこの建築への愛しみと熱
い思いが伝わってきました。また、建築は既製品を買うものでなく、住まい手自らの工夫
で創り維持するものとの感を強くもちました。この建築には、
(1) 江戸時代から増改築を重ねるたびに最適な空間を求めた創意工夫と住み継いでき
  た「時間の重み」が感じられます。
(2) その結果、何よりも環境に配慮した「質の高い美しい空間」となっています。
(3) 増改築の動機が生産性の向上や俳人・西尾武陵の交流など用途上の要求であって
  も、酒蔵空間はアイデア次第で演奏や展示など柔軟な使い方ができます。
(4) 更に、旧山陰道の代表的な地域景観。・・・・これぞ篠山の誇れる地域資産です。
「篠山ならではの地域力」を活かしてこそ持続的な発展があると確信します。

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