01.岐阜県 郡上八幡 <水と生きる>2002.01


第1回は、水と共生するエコロジカルなまち、岐阜県郡上八幡(現郡上市)です。

● まちの概要

まちの中央に長良川の支流・吉田川が東西に流れていて、川の北の方が旧城下です。
頂上に山ノ内一豊の妻・お千代さんが幼少期を過ごしたといわれるお城があります。
南の方が新市街で、水を生活にうまく使うシステムのまちが出来ています。ご存知のよ
うに、江戸時代の城主は、東京青山に下屋敷をもった青山家で、わが篠山・青山家の
分家です。ここは夏の郡上踊りでも有名です。

● まちの象徴・水舟

このまちの象徴は「水舟」と呼ばれる段状の水槽ではないかと思います。(図1)水が大
変豊富にあるからこそ非常に大切にしており、「湯水のように」使っていないのです。湧き
水を竹樋やパイプで誘引して、最上段の蓋のある水槽に飲用水を貯えます。そこから溢
れた水はその下の水槽で食べ物の洗い水に使います。次の水槽は食器洗い用で、食器
についていたご飯粒などが入った水は更に下の段にいる鯉や川魚の水槽に落ちます。
鯉がこれを食べて丸々と太っているという、エコロジカルな、水を一滴も無駄にしない、数
百年もかかって出来た伝統が町の中に息づいています。

これこそゼロエミッション(廃棄物なし)です。水が循環して捨てるものは何もない、「この
世にあるものは全て役立っている」という観点に立っているのではないかと思います。
この大切な水槽には必ずといっていいほど水神さまが置かれ崇められています。また、
まち全体がこの水舟の原理を拡大し、応用しています。いまよく耳にする用語に「サステ
ーナブルな(持続可能な)まち」があります。努めて技術に頼らないで、このままの調子で
行けば長く地球環境を汚さずに子々孫々にわたって無理なく豊かに暮らしていけるという
ことです。こういうまちづくりが今見直され、求められているのではないかと思います。

図1.水舟の原型

● 暮らしのなかの水舟

まちの中に見られる木製の水舟は一種の象徴なので上下2段しかありません。上は飲
み水に、下は洗い物用に使います。憶測ですが、私たち日本人は「水はきれいなもの」
と思い込んでいるようです。「清水」という苗字が多いのがその表われかもしれません。
しかし、水は汚れ具合によっていくらでも使い道があるものです。幻の「水舟の原型」を求
めて終日隈なく歩き回ってやっと発見したのがこれです。(写真1)現代に残る民家のな
かで今もなお現役でけなげに生きていました。山の方から流れてきた水を上段の水槽で
受け、溢れた水を下で受ける、下に行くほど汚れた水でもかまわないという使い方です。
最近は防火水槽の役割も果たしているようです。

● まちなかの水環境

よくコマーシャルに出る「やなか水のこみち」(写真2)をまちの中心部に設けたり、「いが
わこみち」という小川のせせらぎをすすぎ程度の洗濯場としたりしています。また鯉が放
たれた小川を渡って家の裏口から入るなど、まちの至るところに水辺の空間を作ってお
り、水と共生する暮らしと外来客の観光の両方に役立っています。そのほか、「宗祇水」
という観光スポットは、水舟の原理を象徴化した水神さまをもつ3段の水槽です。
こんなところにも、このまちの先人への敬意とともに、自然への畏敬の念すら感じられま
す。(写真3)・・・・・・このまちでは、全てが水、水です。

写真1.生活の中の水舟写真2.やなか水のこみち写真3.まちの象徴・宗祇水

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