05.福島県 川俣町 <絹の伝統を愛しむ>2003.05


ここからしばらく、私自身が町の構想づくりに関わった例をご紹介したいと思います。

● 絹のまち・川俣

福島市の南東約20qにある古くからの絹の里・川俣町はシルクロードの最東端といって
よいでしょう。平安時代に京より川俣へ桑の苗木をもって養蚕と機織(はたおり)の技を伝
えたとされる「お手姫様伝説」もあります。近年、町では地元の機織の専門家・山根正平
氏を中心とした絹の機織と草木染めの伝統技術による観光、絹商人により伝えられたと
される軍鶏(シャモ)の加工販売の2分野でまちおこしが図られています。また町の音楽
家・長沼康光氏を中心に国際的になった全日本中南米音楽祭・コスキン祭も三十周年を
迎えました。(写真1) 初期の頃、氏の手ほどきを受けた数人の学生が今日本を代表す
るフォルクローレの演奏家・エル・コンドルとして活躍中です。

写真1.30周年の全日本中南米音楽祭写真2.筆者設計・研修館での機織体験

● 体験型施設の構想と道の駅・川俣

以前より川俣町を中心に、蚕と桑の育成→生糸の生産→機織→販売と、「絹の生産販
売過程」に沿って近在の町村が分担しつつ連携するとの構想もありましたが、単独でま
ちおこしを行う方向に進みました。

敷地は統合後の小学校の跡地で、福島市からの玄関に位置します。ここに絹の伝統文
化を伝える「おりもの展示館」がまず開館しました。その後、特産品の振興と販売機能を
もつ銘品館、公衆トイレ、駐車場、イベント広場などが徐々に整備され、ここは「絹の里」
と称されました。

私たちは、まちおこし計画の一環としてこの「絹の里」の核となるおりもの体験研修館の
基本構想を立案しました。町の活性化と地域振興にかける地元の方々の熱い思いや願
い、夢をこの建築に込めねばならないと思いました。これは機織や草木染めに関する研
修や研究、体験、また新規製品の開発を喚起して実験的な展示機能を併せもちます。

従来の「見る」展示館に加え、滞在して楽しみながら学べる体験型の「する」観光施設に
より絹への関心と日常生活への普及を願って、まちおこしを図りました。町のエッセンス
=手づくりの文化、産業、技術を掘り起こし、伝統工芸への感動と共感を得ることで、何
度でも訪れたくなる観光拠点を目指しています。

計画中に全国で20番目の(現在700余)「道の駅」の指定を受けました。これは、高齢
者や女性のドライバーが増える中、休憩、地域情報の発信、地域の連携などを目指すも
のです。無料で24時間使えるトイレと駐車場、休憩所と買物やイベントを楽しむ場をもつ
施設群で出来ています。アイデア次第で地域文化や産業、伝統を広く紹介する機能をい
くらでも盛り込めます。

●「道の駅」としての「絹の里」のあり方

この絹の里全体が道の駅の機能を充分に発揮できるよう様々に配慮しています。
(1) 「見る→する→食べる→買う」という基本的な客動線を設定するのが望ましいと考え
  ました。まず、展示館で「見る」ことにより絹への関心を高め、体験館で機織と草木染
  めの体験を「する」。銘品館で名物料理を「食べる」。そして特産品を「買う」という一連
  の客の流れを誘導し、完結した有機的な動線を確保したいと思いました。(ここには
  丹波の黒豆も売られています。)
(2) 観光とは地域の繁栄の様子、つまり「国の光を観る」ことが本義です。絹の里は地域
  の顔・個性の象徴でありたいと思います。
(3) 建設時期や機能の異なる諸建築を尊重しつつ将来には広場を中心に有機的につな
  ぎたい。建築の集合体には統一感が必要です。

写真3.おりもの体験研修館写真4.研修館インテリア

● おりもの体験研修館の設計

(1) 機織や草木染め体験室を中心に展示室、地区の集会所兼用の講義室等からなりま
  す。これらは中庭やホールでつながります。
(2) 主要な空間は絹によるインテリアをもちます。特に機織体験室は絹を透過採光する
  天井と透かし織りによります。(写真2)
(3) 展示室ではインテリア製品としての絹の可能性を探り素材を展示即売します。
(4) 外観は先に建った建築を尊重するために、後で建つ体験館は盛土と緑によって姿を
  隠し、その背景となります。(写真3)

● 今後に残された課題

この種の建築は、伝統的な民家をそっくり移築したようなものでなく、また伝統や地域性
を無視して、単に機能的な要求に従えばよいのでもありません。伝統の中に、現代に通
ずる不易の要素、つまりいつの時代にも引き継がれる「建築の遺伝子」を発見して抽象
化し、現代風に解釈して設計に生かすべきでしょう。これは永遠のテーマだろうと思いま
すが、いかがでしょうか。

次 へ

「いきづくまち」トップへ