10.沖縄県 竹富島 <悠久のパラダイス>2005.05


訪れた方も多いかと思いますが、今回は、地上のパラダイスのような島をご紹介します。

竹富島は、沖縄本島から南西に約450q(=東京〜大阪間)、石垣島の真正面に気品
あるお盆のように浮いています。珊瑚礁の小さな島で、人口わずか300余。また、竹富
島は小豆島とまがうばかりに「二十四の島」とも名付けられています。集落は全国24番
目の伝建保存地区、北緯24・東経124度、最高標高24m、年平均気温24度、年間降
水量 2,400 o。遂には悠久の単位、1日24時間・・・・。

● 観光開発と「竹富島憲章」

戦後の竹富島は地元主導による観光開発の道を歩みました。沖縄が本土復帰した197
2年前後は、水飢饉や台風の襲来に見舞われた人たちが、畑を売って島を離れました。
多くの本土資本が土地を買い漁って、過疎は一挙に進み、無秩序な乱開発と独自文化
の喪失の危機にさらされました。しかし、「ここで畑を耕し、漁をして暮らしたい。都会ほど
の経済的裕福さはなくても、気心の知れた共同体の中で安心して生きよう」と決意した人
たちは試行錯誤しながらも島を守る活動を展開してきたのです。

例えば、1986年制定の「竹富島憲章」には「1.売らない、2.汚さない、3.乱さない、
4.壊さない、5.生かす」とあります。この島には旅館やホテルは一軒もなく、民家に泊
まらねばなりません。住民が現在の暮らし文化を無理なく維持できるように配慮された結
果がこの民泊主義なのです。

写真1.お盆の如く浮かぶ珊瑚礁・竹富島写真2.竹富島の集落景観(1)

● 美しい集落景観づくり

伝建保存地区の指定後、まち並み保存基金も加えて、景観も修復されつつあります。
竹富島の集落景観の特徴は4つです。
(1)珊瑚礁の白い砂を敷きつめた道、(2)灰色斑の珊瑚石灰岩の石垣、(3)赤い琉球瓦を
漆喰で塗り固めた屋根、(4)石垣越しに四季を通じて咲く花々・・・・。

赤瓦を塗り固めた漆喰は風雨に打たれて黒灰色に変化し、およそ十年後には住民自ら
が塗り替えます。また、屋根上の魔除けのシーサーは、屋根職人さんが最後の仕上げと
して赤瓦を割り、漆喰で繋ぎ止めながらつくります。個性を競い合う芸術品でもあり、景
観に親しみを与えています。

● 集落と民家のつくり

集落は東西南北の格子状に区画され、各戸は南北2面で道路に接します。ふつう道路を
挟んで両側の住戸の正面が向かい合うところですが、ここではほぼ全ての住戸が南入り
で、東西方向の道路には南側宅地の裏口と北側宅地の正面入口がとられます。つまり
通常の集落が中廊下型なら、ここの集落は南入り片廊下型といえます。

さらに各住戸の入口には沖縄独特の「ヒンプン」があり、視線は遮っても風は通します。
家を南向きに開口部を広くとって、風を取り入れ暑さをしのぐ。石垣とフクギなどの屋敷
林を巡らせて台風対策とします。風土に根ざした建築はまさに文化そのものです。

写真3.竹富島の集落景観(2)全景写真4.フクギの屋敷林と南国の花々

● 古瓦・木材など古材の収集と再利用

竹富島ではほとんどが石垣島の古民家の古瓦を使っています。古瓦は形や色が不揃い
で、軒先も役瓦を使わず漆喰で塗り固めています。いかにも手づくりの底光をもつ景観を
つくります。そこには時間や風土、生活で磨き上げられた美があります。そもそも伝統的
な社会では、解体資材を再利用するのはごく自然なことでした。木造の大きな特徴は分
解・再利用・取り替えできること=循環型であって、環境問題という高邁な理念を振りか
ざすこともないのです。

また、全国的には産業廃棄物全体に占める建築廃材の割合は約四割とも言われます。
竹富島が古材を調達している石垣島では、年間約50余件の瓦葺きの民家が解体され、
大部分は産廃物として処分されています。瓦、野地竹、垂木、桁、梁、柱、イヌマキ材、
敷石など、まだまだ再利用できる部材を選別保管し、近在の島で修復に生かす動きもあ
ります。分解・再生を考えて設計する「逆設計」の手もあるわけです。

●「景観力」と「観光力」をもつ島へ

今、徐々に変化しつつある景観には、「竹富島景観形成マニュアル」で対応しています。
放置すれば棚田と同様、集落も崩れます。島の若者、Uターン者、脱都会型の本土から
の移住家族などが安価で景観にあった建物を建てられるか否かが課題です。

竹富島は、解体部材の再利用で住み易い民家を引き継ぎ、経済のものさしでは計りしれ
ない真の「観光力」をもつ島です。

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